学部生向け

Q
倫理学と哲学はどうちがうのですか?
A

倫理学は、〈ひと〉の生、〈ひと〉と〈ひと〉とがどのように生き・関係し・あることを行うのか、その意味や理由をかんがえる、哲学のひとつの分野としてはじまりました。今日の倫理学(特に応用倫理と呼ばれる領域)は、さまざまな分野や社会の問題と接しながら幅広く展開しています。哲学や倫理・倫理学(英語では同じethics)は、特定の学問分野では収まりきらず、常にそれらを横断してかんがえることです。そのような営みの場所と言ってもよいでしょう。私たちが思い描く「倫理・倫理学」とは、ひとびとが交わり、対話をかさね、生き方や〈ともに生きる〉ということについて、じっくりかんがえることのできる場所です。

Q
倫理学ではどのようなことを学ぶことができますか?
A

多くの大学の倫理学では、西洋の倫理学説やその歴史を学ぶことが求められますが、大阪大学文学部では、従来の理論・学説研究ではみのがされがちであった、つぎの3つを学ぶことをたいせつにしています。

関係性(3つのC): 身近なことがらから遠いものまで、ひと・ひとびとの〈生〉にかかわる問いかけやニーズにどのように応答し(care)、わがごととして関心をもち(concern)、つながり(connection)をかんじることができるか、について話しあい、かんがえる。
対話: 現代社会におけるさまざまなことがらを〈倫理〉という視点から眺め、そこから見えることについて他者とともに対話し、たがいの考えを述べる。
単独の生: ある状況を生きるひとりひとりの生きざまから、主流とされている倫理や倫理学説そのものを捉え返す。
Q
倫理学を学ぶのに哲学の知識は必要でしょうか?
A

あるテーマ・問題について、これまで哲学者や思想家がどのようにかんがえてきたのかを知ることはおおきなヒントになります。ただし、哲学者というのは高校の倫理に登場するような大哲学者である必要はありません。

  • 哲学としてたいせつなのは、知識ではなく、ひとがあることがらについて、じっくりかんがえるために、どのような表現方法(概念構築、詩的言語、エッセイ、対話など)をえらび、それによってなにを実行したのか、その表現を学び、じっさい使ってみることです。
    文献資料を丁寧に読むスキル→文献講読演習
  • 哲学的にかんがえる、書くやりかたは、歴史・文化・言語のひろがりのなかで、いろいろあります。主流の西洋倫理学説や歴史以外の言語、文化、歴史にも目を向けてください。
    非西洋やグローバルサウス、日本国内のマイノリティへの関心をもつ
  • じぶんがかんがえたいテーマに関連するものはジャンルを問わずなんでも読む。こういった姿勢こそがむしろ「哲学的」といえるでしょう。そのためには、関連分野についての広範な知識が必要になります。大阪大学で開講されている他分野の授業を積極的に受講してください。
    学際性

大学院を目指す人へ

Q
臨床哲学は、だれが発案し、どのような意味をもっているのですか?
A

発案者は哲学者の鷲田清一で、1998年に当時大阪大学文学研究科にあった「倫理学」研究室の名称を改め「臨床哲学」としました。鷲田は、元々はベッドサイドを意味する「クリニックclinic」という言葉から発想を得て、次のように書いています。

わたしが臨床哲学の試みということで、まず〈場所〉にこだわるのは、「臨床」という、ひとびとの「苦しみの場所」とでもいうべき場所において、わたしが、名前をもった特定のだれかとして、別のだれかある特定の人物にかかわってゆくことになぜ、哲学的思考が格別の意味をもちうるのかが示されなければ、臨床哲学などは必要なく、ただ臨床的行為があれば足りるからである。

『「聴く」ことの力:臨床哲学試論』ちくま学芸文庫、2015年、54頁

ここで示されている「臨床」とは、医療現場などの狭い意味ではありません。臨床哲学は「医療に関係する哲学の専門分野」であるとしばしば誤解されるのですが、そうではなく、人びとの具体的で倫理的な関係が生まれる〈場所〉を起点にした哲学の試みを意味します。

Q
大学院で研究するために準備しておくべきことは何ですか?
A

最も重要なことは、自分が関心を持って考えてみたい問題を、できるだけ明確な「問い」の形にすることです。それは、論文(修士論文・博士論文)における「研究課題」を考えておくということです。また、問題を扱っている各種の学問領域(例えば社会学・心理学・政治学・人類学・社会諸科学など)に接し、それらの文献を適切に理解する力を身につけておく必要があります。
哲学や倫理学において、研究の「基礎」や「方法」が定まっているわけではありません。臨床哲学として問題を考えるためには、特定の学問領域に限ることなく、どんな文献でも読んで問題を捉えようとする努力を惜しまないこと、それが「哲学する」ことです。また、文献を幅広く理解するための外国語(少なくとも英語)読解能力が必要です。

Q
大学院では、学生はどのようなことを、どのような方法で研究しているのですか?
A

医療、福祉、教育、芸術、科学技術、セクシュアリティ、マイノリティ、メディア、組織など、社会の中には多様な問題の切り口があります。私たちは、そこに現れた言葉を吟味しつつ、それらに関わる人々と対話や議論を行います。その中で「何が問題であるのか」を探し出し、研究プランをデザイン・遂行しようとします。具体的には、次のような課題・方向づけをもとに研究を行っています。

  • 対人支援と哲学を結びつける研究・活動
  • 現代社会の問題と倫理に関する研究・活動
  • 社会の現場経験を哲学的に深めようとする研究・活動

研究室には、学部で哲学・倫理学を学んできた人だけではなく、様々な学問分野や社会の現場で活動してきた人たちもいます。

Q
大学院を修了した後、どのような進路があるのですか?
A

臨床哲学の修了者の中には、研究職に就くのではなく、公務員、教師、看護師、助産師、精神保健福祉士(PSW)など、現場で専門職として仕事をしながら、あるいは哲学実践者として、ともに対話と探究を続ける人たちも活躍をはじめています。

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