倫理学・臨床哲学研究室について
研究室が目指すこと
私たちの研究室は、この社会において生き、働き、死にゆくひとびとが直面する障壁や困難について、ともになやみ、ともにかんがえる場としての哲学・倫理学をかかげ、社会の個々の現場においてひとびとともに探究と対話をつづけることができることを目標にしています。
それは社会課題の解決や社会の変革そのものを志向するというよりは、ひとびとの生きる力を高め、苦楽をともにしつつ、ゆたかな生活を営むことです。また、既成の学術研究の枠組みにとらわれず、専門性/非専門性、アカデミズムとその外、現場と理論研究のはざまにありながら、そのどちらかには偏らない新しい方向を模索することです。具体的には、次のような研究教育活動を推進します。
- 問題が生じている当の場所や状況、あるいは問題を生きる当事者に応答する研究の可能性を追求し、その重要性を主張します。
- 人が苦しみを生きる知恵を学びつつ、その苦しみやニーズに応答し、つながりを生み出す哲学の探究と実践を目指します。
- 社会の様々な現場で対話を実践する人たちを育成します。
背景
明治期以来、日本の大学で「哲学・倫理学」と言えば、欧米中心の学説史や理論について学ぶことばかりを重視し、社会における倫理の問題を自分たちで考えるという課題には、十分に向きあっていませんでした。1990年代になって、日本の倫理学者たちは、そのような状況を批判し、それぞれに社会に向きあう道を模索してきました。こうした流れを受け継ぎ、1998年大阪大学大学院文学研究科(現・人文学研究科)に新たな専門分野として「臨床哲学」も設置されました。
ここで「臨床」という言葉で指し示そうとするのは「社会の中で問題が生じている当の場所」です。その場所を手放さず、そこから「ともに哲学する」可能性を探究すること、これが「臨床哲学」という名前の下で目指すものです。
※さらに詳しくは、Q&A「臨床哲学は、だれが発案し、どのような意味をもっているのですか」をご覧ください。
研究と実践
研究室は学部では倫理学専修、大学院では臨床哲学となっていますが、目指すところは同じです。
そこで、研究職やそれ以外の職場を問わず、生活の現場でかんがえつづけるための〈問い〉を発見し、あじわうための研究と実践に取り組んでいます。
方法は教員によって異なるアプローチがとられます。
※詳しくは「教員の紹介」をご覧ください。
概念アプローチ(堀江)
ソクラテス的対話の手法などをもちいて、日常の言語をもとに、対話による概念の吟味をおこなうほか、組織の問題の(解決というよりは)哲学的な「解し」をめざす。
応答アプローチ(小西)
社会において主流とされる規範とは異なる響きをもつ声や、愛憎などの両義的な感情を抱えた人びとの生き様に注目することで、既存の倫理規範の限界を問いつつ、そのような生に応答するあり方を模索する。
割り切れないアプローチ(西村)
社会を制御するためにうち建てられた〈割り切る〉ための哲学倫理学理論が大鉈をふるった結果、その刃のもとでさらなる苦しみに苛まれるのひとたちの〈割り切れない〉想いに寄り添い、〈対話〉という営みをとおして個々人の考えや価値観を問い直し、逞しくする場を拓く。
芸能アプローチ(ほんま)
ある社会のなかで主流ではない生活文化をいとなむひとたちの表現活動に目をむけ、参加し、そのなかで創作活動をおこなう。