【刊行物】小西真理子著『歪な愛の倫理――〈第三者〉は暴力関係にどう応じるべきか』(筑摩選書268)

あるべきかたちに
回収されないもの
――暴力の渦中にある<当人>の語りから、
<第三者>の応答可能性を考える。

DV(ドメスティック・バイオレンス)に代表される、暴力関係から逃れられないひとには、実際、何が起きているのか。問題系を前提とした〈当事者〉ではなく、特定の個人に注目した〈当人〉の語りから議論を始めたとき、〈第三者〉は、どのようにして応答することができるのか。本書は、「なぜ暴力関係から逃れられないのか」という問いへの通説的な見解に対して、再考を迫る。あるべきかたちに回収されない異なるエートスを探求する、刺激的な論考。

目次

まえがき 親密な関係に生じる暴力を問う――〈当人〉と〈第三者〉のあいだの亀裂

第1章 なぜ暴力関係から逃れないのか【通説編】――専門家らによる見解
  • 1 加害者から離れたがらない被害者たち
    • 1-1 DV加害者から離れない被害者たち
    • 1-2 親をかばう被虐待児たち
  • 2 専門家らによる代表的な回答
    • 2-1 加害者の暴力によって無力化しているから
    • 2-2 加害者の「愛情」に固執しているから
    • 2-3 加害者に支配/洗脳されているから
    • 2-4 加害者に依存しているから
第2章 なぜ暴力関係から逃れないのか【異端編】――語られる歪な愛
  • 1 分離以外の解決策の必要性――「離れたくない」
  • 2 〈当人〉の言葉の真正性――「私は相手のことをよく知っている」
  • 3 依存がもたらす救済――「依存によって生きのびられる」
  • 4 欲望される暴力や支配――「私はマゾヒストである」
第3章 分離とは異なる解決策――DVと修復的正義
  • 1 加害者との関係性切断を拒絶する被害者
    • 1-1 ノードロップ政策
    • 1-2 リンダ・ミルズによる問題提起
  • 2 DVにおける修復的正義の実践「サークル・オブ・ピース」
  • 3 DVに修復的正義を適用することへの批判
  • 4 日本の現状と今後
第4章 暴力的な存在と社会的排除――トルーディ事件を考える
  • 1 トルーディ事件
  • 2 トルーディの真正性
    • 2-1 トルーディはどうして問題視されたのか
    • 2-2 トルーディ・シュトイアナーゲルの論文
    • 2-3 トルーディの声
第5章 生きのびるためのアディクション――自己治療・自傷・自殺
  • 1 自己治療仮説
  • 2 日本における「生きのびるためのアディクション」
  • 3 見えなくなっていく死(者)
    • 3-1 死に至る自己治療
    • 3-2 医療や支援からの拒絶
    • 3-3 「生きのびる」ことに回収できない肯定性
    • 3-4 依存先が形成できないとき
第6章 介入と治療からの自由
  • 1 〈第三者〉にできること:ドラマ『ラスト・フレンズ』から考える
    • 1-1 身近な他者としてどう関わるか
    • 1-2 公的支援の必要性と限界
  • 2 自傷他害とパターナリズム
    • 2-1 適応的選好形成
    • 2-2 他害
    • 2-3 自傷
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