Vol. 5紀平 知樹さん

博士後期課程1999年単位取得退学
2025年1月14日

研究室にいた時のこと

もともと別の大学で哲学を学んでいた私が臨床哲学研究室に入ることになったのは、進路に迷っていたときに相談した人からすすめられたからでした。そして私が大学院(博士前期課程)に入った時、臨床哲学研究室はまだ倫理学研究室でした。博士後期課程に進んで1年たった後、大学院の専攻が倫理学から臨床哲学に変わりました。博士前期課程で入った当初の研究室の雰囲気は、他の大学とそれほど大きく変わるものではなかったように思います。提供されている授業も伝統的なもので、私の記憶では、例えば鷲田先生の授業ではカントの『道徳形而上学の基礎づけ』をひげ文字のドイツ語のテキストを渡され、一文ずつ翻訳しながら読み進めるといった内容でした。他方で臨床哲学への動きも始まりました。授業外で臨床哲学研究会が開催され、いわゆる哲学史や哲学者研究ではない哲学のあり方に徐々に触れていったと思います。そして専攻名が臨床哲学となると、医療関係の人が沢山授業や研究会に参加されたり、大学院に入学されたりしていました、他の大学ですでに教員をしている人や病院で働いているような人が、自分と一緒の院生というのもなんとなく不思議な感じでしたが、同じ院生として様々な問題について議論していました。こうして立ち上がった臨床哲学研究室では、医療や教育が中心的な問題として議論されており、現場に出るということで老健施設に出向いたり、高校で授業を行ったりするようになっていました。そうした中で私はどちらかといえば、傍観者的な立場だったと思います。というのもどちらの問題も自分の問題として考えることが難しかったからです。そこで何か自分にとって問題になることがないかを考えていたところ、環境問題につきあたりました。大学院を出た後、別の大学に2年ほど研究員として勤めてから、こんどは教員として研究室に戻ってきました。まだその当時の臨床哲学研究室は試行錯誤、紆余曲折の段階でしたので、教員としては研究室に在籍する学生や臨床哲学に興味を持ってくれる人達がどうすれば継続的に活動しやすくなるのかを考えていたように思います。

今何をしているのか

臨床哲学研究室で教員を6年間務めたあとは、兵庫医療大学(現在は兵庫医科大学)の教員になり、2019年度からは現在の兵庫県立大学看護学部の教員として勤務しています。最初の兵庫医療大学では主として教養科目の担当と多職種連携教育に関わりました。多職種連携教育では同じように医療をめざす学生であっても、学部ごとの特徴があることに気づきました。ほぼ数値だけで構成された患者データをみて、この人の疾患は○×だと判断する医学部生。その疾患の治療に必要な薬剤を提案する薬学部生。しかし、看護学部生は退院指導するにも家族構成がわからないと考えられないと困っていたり、理学療法士をめざす学生は、その人が帰る家の(例えば土間の)段差の情報が欲しいなどといったりしていました。自分たちの持ち場があるからこその専門職ですが、それぞれの専門性を突き詰めれば予定調和的にうまく行くわけではないので、分業ではなく連携のための教育について考え、試行錯誤していました。現在の兵庫県立大学では、一般教養の科目の中で哲学的な思考を促すような授業を考えたりしています。研究としては、環境問題への対処として中心的な考え方になっている持続可能な開発の具体的な問題として、観光の倫理という問題に取り組んでいます。

エコツアー参加中の様子

研究室で学んだことと現在のつながり

私が学生の頃、忙しい中、遠くから臨床哲学の授業に参加される方をたくさんみてきました。そうした姿をみて思ったのは、自分にとっての問題を見つけないといけないということです。他方で、自分がしたいことをするだけでなく、哲学に対するニーズに応えられるかということも考えるべきことだと思います。自分にとっての問題という点では、環境問題から続いて環境倫理学や観光の倫理がそれにあたります。少なくとも環境問題は自分を傍観者にすることはできない問題として考え続けています。後者については、あまり哲学に関心のなさそうなところでどれくらい関心を持ってもらえるかを試しているつもりです。それと、研究室を通して出会った人のつながりで自分だけでは経験できなさそうなことを経験でき、新しい可能性を開いてもらっていると思います。

エコツアーでのシーカヤック

現在の研究室の学生のみなさんへ

この研究室にいるからできることを見つけて、その中から研究室を後にした時にもできることも見つけてください。

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